母のテレビ
ひとり暮らししている母のところにあるテレビの映りがおかしくなっていた。いくら調整しても画面が緑っぽくなっているし、スイッチを入れて画面が出るまでに1分近くかかった。
約8年前のブラウン管テレビだった。もったいないからこのままでもいいと言っていた母もさすがにテレビを買い替える気になっていた。
特に趣味を持たない母の楽しみといえばテレビくらいになっているので、置き場所のサイズ内(幅55㎝)できるだけ映像のきれいなものを基準に探した。ちょうど決算セールをやっていて22インチのテレビを安く買えた。
さっそく古いテレビを取り外して真新しい液晶テレビをセットし、地デジのきれいな画面を母に見せた。「すごいねぇ、こんなにも違うんだねぇ。時代よねぇ!」としきりに感心する母。「こんなに薄いのにちゃんと映るのね」って・・・そこ!?
テレビを横から眺めて感動している母にチャンネルを渡して必要な操作だけを簡単に説明した後、重いブラウン管テレビを抱えて家に戻った。いずれ地デジ対応のテレビと交換しなければならなかったのでほっとした。母も喜んでくれた。
晩ご飯を食べているときに母から電話がかかってきた。何か言いにくそうにしながら、「せっかく買ってもらったテレビだけど・・・ちょっとおかしいみたい。壊れてはいないと思うけど・・・」と予想外の話。症状を聞くと、いくらボタンを押してもNHKが映らないとのことだった。アナログのときの番号「6」を押しているらしいので、「3」に番号が変わっていることを説明するが、「なんで変えたの?」と言われてしまった。
電話口で「いいから3を押してみて、3を。数字が並んでいるところの3!」とやや必死になって説明するが、壊れたと思いこんでいるせいか「映らない。だめみたい」との返事を繰り返す。デジタルの番号は1,2,3,4,5,8で、ちょうど6のチャンネルは何も映らないようになっているのだ。長い習慣から、NHKは6チャンネルという観念から抜け出せないようだ。
母も疲れたのか「もういいから、明日来て(テレビの様子を)見てね」と電話を切られてしまった。「えー、そんなん? 何で分からないの?」と少しショックを受けながら晩ご飯を食べているとまた電話が。
「いろいろ触っていたらNHKが出た。3番を押したら出るみたい。良かったー、もう心配しなくていいからね」と。
心配だよ。
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